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| ペリー・ローダン |

Die Hamamesch / ハマメシュ

1996/4/15 r.psytoh / 西塔玲二
- 監修 / y.wakabayashi

PERRY RHODAN Nr.1750 - 1799
NGZ1216年 / 銀河系とヴォイドのあいだで


プロローグ

 われわれの知るものだけが、この宇宙の姿ではない。
 メビウスの輪を超えて火星に飛来したクリスタルが、その証。
 宇宙の「裏側」、ネガティヴ・ストレンジネスの世界アレズムを侵食する謎の勢力アプルーゼの送り出した結晶体は、あらゆる生命を死にいたらしめる波動を放ちつつ成長をつづけていく。
 活性装置をもつ不死者たちすべてが、アプルーゼとの戦いの最前線たるアレズムへと遠征し不在のなか、自由テラナー連盟の全権委員に就任したジオ・シェレムドクは、クリスタル惑星と化した火星の放棄を宣言した。
 ゆっくりと、しかし確実に拡大をつづける死のゾーン。生命のみならず、いかなる技術の産物も機能を停止させるアプルーゼの波動は、やがて人類の故郷、テラをも呑み込むだろう。そうして、いつかは宇宙の「表側」パレズムのすべてを。
 クリスタルを破壊しうる手段が存在しない以上、それは時間の問題だった……。
 死のクリスタルへの対応に忙殺され、シェレムドクをはじめとするLFT首脳は、もうひとつの脅威の重大さに気づかない。アプルーゼの猛威のかげで局所銀河群を訪れたそれは、銀河文明を根幹から揺り動かすほどの危険をはらんでいるのだが。
 はじまりは、ひとつの鈴。そして、数百の。
 だが、それは到来するキャラバンの先駆けにすぎなかった。
 魔法を売るバザールを率いた、ヒルドバーンの商人種族ハマメシュの大船団の……。


1. ヴォイドへの道で

- 第一次遠征の回想

 新銀河暦1202年、《バジス》は銀河系を旅立った。
 エノクスの語る「宇宙最大の謎」を秘めた場所、かみのけ座のヴォイドにむかって。
 2億2500万光年もの隔たりは、さしも巨大航宙母艦にとっても、たやすくこなせるものではない。遠征は、途上、中間補給点を設置しながら進められる計画である。将来のハンザ商館でもあるコマ・ステーション(コマ=かみのけ座)は、自己再生産能力を有する新型ロボット・アンドロギュヌスたちによって管理されるのだ。
 1204年6月、往路のほぼ中程にあたるNGC4793において、コマ-6の建設が開始された。故郷銀河から1億1800万光年をへだてた島宇宙辺境のギネク星系にステーションを建設したことには、意味があった。
 かつて、ここにはアルコアナの先祖にあたる種族ロークが住んでいた。好戦的なロークは、クヴィーネロッホ(=無限の地)と名づけた銀河を、他の多くの世界でそうしたように、争いによって荒廃させ、自滅していった。かれらの入植していたとされる第5惑星は、いまではアステロイドベルトとなって恒星ギネクをめぐっている。
 その岩塊のひとつを中継拠点とすることで、ギャラクティカーと蜘蛛型種族との実りある未来の象徴を築き上げたいとローダンは願ったのだ。遠征に同行しているアルコアナの数学者コルーンシャバも、感謝の言葉でそれを受け入れた。
 だが、クヴィーネロッホは予想もつかない危険をそのうちに秘めていた。ステーション建造期間中、多くの者たちが搭載艇を駆って巨大な渦状銀河の深奥へと偵察名目の小旅行へと出発した。その中の、《バジス》艦長ハロルド・ナイマン率いる一隊が、未知勢力に遭遇したのだ。
 突如出現した数隻の宇宙船とコンタクトをとろうとした刹那、ギャラクティカーたちは痛烈なメンタル・アタックを受ける。かろうじて逃走に成功はしたものの、34名が死亡し、残る524名も1年近くにわたり艦内クリニックへの入院を余儀なくされた。
 未知の精神存在――あるいは、超知性体クラスの――が、クヴィーネロッホを勢力圏としていることが推測され、再度の紛争を避けた遠征隊は、早々にNGC4793を去ることとなった。

*

 ローダン率いる遠征隊が、はるかなヴォイドにおいて、21の超物理惑星サンプラーをめぐり、200万年の昔から連綿とひきつがれてきた謎を追求しているあいだ、コマ-6に残されたアンドロギュヌスたちは、ステーションを保守し、増築し、自らの同胞を増産し、主人たちの帰還を待ち続けていた。そして……。
 1210年になって、ようやく《バジス》がステーションに現われたとき、コマ-6には予想もしなかった訪問者があった。直立歩行する魚を連想させるハマメシュ。かれらは、局所銀河群から見てちょうどNGC4793の背後に隠れた小銀河ヒルドバーンで独占通商権をにぎる商人種族。偶然からコマ・ステーションを発見し、ギャラクティカーのハイテクに商売のタネを見出したハマメシュは、交易の申し入れに訪れると、決定権をもつヴォイド遠征隊の帰還を待ちつづけていたという。
 《バジス》到着と前後してハマメシュの交易独占に反発する宙賊、クライパー艦隊の襲撃をうけていたコマ-6の修復を進めながら、ローダンはハマメシュ・キャラバンの代表者と会談。将来の通商条約について合意する。
 その際、6年前クヴィーネロッホでハロルド・ナイマンたちが接触した未知船団がハマメシュのものであったらしきことが判明する。しかし商人たちは、失敗した友好的コンタクトの試み以外、何も知らないという。

*

 1212年1月31日、《バジス》は銀河系に帰到。
 サンプラー惑星から回収された謎の物体スピンデルの分析が大回転で進められ、アルコアナの協力を得てスピンデル生命体が続々と誕生し……そして暴走する。事態は急速に第2次ヴォイド遠征へと進展し、大宇宙の交差点でつかのま出会った種族のことなど、人々はすぐに忘れてしまった。


2. 奇跡の鈴の呪縛

- そして、道は開かれた

 1216年10月31日、ヴォイド深奥の暗黒惑星カロンにあったローダンたちが、スピンデル生命体たちのパワーで宇宙の表裏をわかつ壁を破り、アレズムへと突入。そして翌年1月、火星上空の次元の裂け目を通じて、アプルーゼのクリスタルのかけらがパレズムに出現する。赤い砂の惑星に落下した死の結晶は、すぐに、あらゆる生命とすべてのメカニクスを活動停止にいたらしめる波動をはなちはじめた。
 クリスタルを破壊する手段はない。LFTの全権委員に任命されたジオ・シェレムドクも、住民の疎開を命ずるほかなかった。だが、それも問題の先送りにすぎない。火星を中心に広がりはじめた死のゾーンが次にとらえるのは、テラなのだから。
 そんなときに、不意の客が太陽系を訪れる。力の球形体エスタルトゥの船《キリノ》。使節たるゾム人、フルノエドは、十二銀河と局所銀河群との交易の全権をまかされてきたという。無碍に追いかえすわけにもいかず、銀河ネットワークにフルノエドのメッセージを載せるシェレムドクであったが……。
 映像の中でフルノエドの玩んでいた10センチほどの大きさの鈴……。ゾム人の語るどんな言葉より、その小さな物体に反応した人々がいた。かれらにとって、それは魔法のように心惹くものだったのだ。そして、その「奇跡の鈴」に心を奪われた者たちの中に「かれら」がいた。
 バジス退役兵と呼ばれる一団は、かつて第1次コマ遠征に際して、NGC4793の未知存在のメンタル・アタックを受け、生き延びた人々。かれらは保安上の理由から第2次遠征に参加することを禁じられ、局所銀河群に残って、いわば「二線級」の業務に就かされていた。奇跡の鈴は、誰よりもかれらに作用したのだ。
 《バジス》の前艦長であるハロルド・ナイマンもそのひとり。個人的にフルノエドと面会したナイマンは、合言葉「ゴマシュ・エンドレッデ」を教えられ、バジス退役兵を招集してロクフォルトに来い、と教えられる。
 そして……ギャラクティカムの評議場ヒューマニドロームがめぐる惑星ロクフォルトにおいて、フルノエドをはじめとするゾム人たちは、「鈴」を求める暴徒たちによって無残な死を遂げる。最期の瞬間に駆けつけたナイマンは、「大マゼラン星雲へ……」という言葉だけを耳にした。そして、「ゴマシュ・エンドレッデ!」と。
 ナイマンとバジス退役兵の《ペリヘル》は大マゼラン星雲へと針路をとった。なぜかはわからないままに。その船内には、フルノエドの遺した数百の鈴があった。

*

 やがて、ジオ・シェレムドクのもとへ報告が届く。マゼランにおいて、謎の商品が流布しはじめた……と。派遣されたハンザ・スペシャリスト、オクストーン人のディリア・モワクは、その背後に、消息を絶ったバジス退役兵たちがいることをつかむ。そして、正体不明の「商品」が、ゾム人のもたらした鈴と同種のものであることを。
 ゾム人の意図をさぐりだすべく、《アンソン・アーガイリス》がエスタルトゥからの転送機航路の終点、ゴムの門へと出動する。銀河系から150万光年の距離にある、直径700メートルの転送ステーションに到着したハンザ船は、門管理官ウレボエとコンタクトをとるが、ゾム人の態度は協力的とはいいがたかった。ひそかに門の管制者であるナックのパレヴォに接触したハンザ・スペシャリストは、ようやく手がかりらしき答えを得る。フルノエドが銀河系へむかう直前、局所銀河群のものでも十二銀河のものでもない1隻の船がゴムの門に物質化したことをパレヴォは記憶していた。そして、それが「先駆け」でしかないことを。
 そう、待機する《アンソン・アーガイリス》の眼前で、ゴムの門の転送フィールドがきらめき、未知の船が吐き出されてくる。1隻……2隻……。その数は、やがて数百のオーダーに乗った。
 それはキャラバン。ヒルドバーンの商人、ハマメシュのキャラバンなのだ。


Die Hamamesch
1996/4/15 r.psytoh with y.wakabayashi
produced by rlmdi.