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| ペリー・ローダン |

Kugelshiff

ペリー・ローダン・ネオ (NEO)――古い名を借りた新しいシリーズ


 月面のアームストロング基地との通信がとだえた。月基地が送ってきた最後の写真は月の裏側に降り立つ巨大な物体をとらえていた。米国はとりいそぎ宇宙船一隻を仕立てて月に送る。だが月の裏側に至ったところで月宇宙船との通信もとだえた。

 地球の一都市ヒューストンのさびれて荒れた一角に身寄りのない子供を保護する小さな私立の施設があった。グレーターヒューストンのストリートチルドレンは1万名以上。この施設が世話するのは31名。発育不良で隻腕でそれでも明るくふるまう少女がいる。宇宙オタクの少年がいる。ちょっとしたことで武器を持ち出す乱暴な兄弟もいる。隻腕の少女は乱暴なふたりを追い出そうと何度もくりかえし経営者に言う。ふたりを嫌って言うのではない。問題がおきて施設が傾くのが怖いのである。その乱暴者にしても施設の貴重な収入源である投棄自転車のリサイクルには真面目に取り組む。子供たちに他に行くあてはない。ここはかけがえのない居場所なのである。
 破局は思いがけなく訪れた。株が暴落して施設は経済的に立ち行かなくなる。経営する男は苦悩も露わに数字を見つめる。宇宙オタクの少年は状況を察してあらんことか銀行に忍びこむ。警察が施設に来る。乱暴な兄弟は自分らが追い出されて引き渡されるのだと怒り怯える。隠していた銃を持ち出し、よりにもよって施設の一番の理解者だった警官を撃ち殺す。警官隊が応射する。あまりの光景に経営者の男は絶望する。かれはたったいま足りない金を工面してきたところだ。誰もこんなことをする必要はなかったのだ。やめてくれ。叫んで男は施設の前に飛び出し撃たれる。駆け寄って隻腕の少女も銃火を浴びる。どうしてこうなったのか。男や子供たちが愚かでなかったとはいわない。それでもかれらは自分と施設を守ろうと懸命に行動したに過ぎない。守ろうともがいてボタンを掛け違って、かけがえのない居場所を自分で壊してしまったのである。

 ヒューストンの小さな施設の問題は形を変えてみれば目下の地球にあてはまる。広域にわたる不作、先の見えた地下資源、経済は停滞し、人々は自分の居場所を守るのに汲々としていた。絶望して権力者たちは侵略という最終手段を思う。諸国がいまだ戦争に至らないのは大国がにらみあうから、善意ある人々が世界の均衡をぎりぎり支えてきたからに過ぎない。些細なきっかけひとつでかつてない規模の戦争になる。もう瀬戸際まで来ている。月面の巨大な人工物が何であるにせよ人類の知らない技術の産であることは明らかである。どの国も喉から手が出るほどに欲しい。だがもし一国が手に入れたならこれが引き金になる。戦争になる。人類の文明は終わりである。人は自分と自分の居場所を守ろうともがいて、かけがえのないものを壊してしまう。

 地球を遠く離れたところで、月宇宙船は高度な技術の妨害をうけて、それでもどうにか月面に降りる。船長は人工物すなわち巨大な異星の宇宙船のもとに至る。見上げれば人類が下等な生き物と思い知らされる。でも愚かなばかりではいられない。今まさにここに立つ男の決断と行動に全人類の未来がかかっていた……。

 この物語は何か。2011年9月30日にドイツで始まった隔週の読み物シリーズPERRY RHODAN NEO - DIE ZUKUNFT BEGINNT VON VORN「ペリー・ローダンNEO――未来は新たにはじまる」(以下NEO)の冒頭である。
 早川書房が1971年から翻訳出版する宇宙英雄ペリー・ローダン・シリーズの原書シリーズ(以下オリジナル)が西ドイツで始まったのは1961年9月8日である。時は流れて2011年9月30日、ドイツのマンハイムでファンが集まるイベントがあって五十周年を盛大に祝った。
 NEOはこの祝い事に合わせた記念企画である。オリジナルを今風に味付けした八冊限定のいうなればパロディ企画である。プロットをまとめる役目のフランク・ボルシュはこの企画に真正面から取り組んだ。オリジナルは東西冷戦下の西ドイツの人々に核戦争のない未来を語って好評を博した。ならばNEOが語るのは何か。

 2036年、月宇宙船の船長ペリー・ローダンは異星人の助力を得て地球に戻る。人のいないゴビ砂漠を選んで高度な技術に守られた都市を築く。中国もロシアも祖国も敵に回して、人類がひとつになるよう仕向ける。米国は二隻目の月宇宙船を送って月面の異星船を爆破する。ローダンの前途は多難である。そこにさらに思いがけない強敵が立ちはだかる。
 汚染や破壊が進む地球では人もまた壊れはじめていた。壊れた遺伝子は時として持ち主にそれぞれ普通の人にない特殊な力を授けた。クリフォード・モンタニーはこうした能力者のひとりである。かれは他の能力者のいどころを知ることができる。加えて他人に意志を押しつけることができる。モンタニーは能力者たちを率いて自分の望む世を作ろうとする。
 一連の騒動すべてを収めて地球(テラ)連合ができる。ローダンはひとつになった人類の星に、地球人(テラナー)の地球に献杯する。

 これがNEO冒頭の八冊である。
 2011年3月に極東で震災と原発事故があった。前年のギリシア危機で欧州連合(EU)は揺らいでいた。中東にアフリカに世界の各地に戦火と戦火の火種があった。ボルシュはオリジナルから人や物の名と設定をいくらか借りて、当時のドイツの人々が想うほの暗い未来に燈明を立てた。八冊は好意的にうけとめられて先も続くことになった。
 九冊目から先、NEOは宇宙進出する人類を語る。だが主人公は【あれ】をうけとらない。【あの】人が敵に回る。【あれ】の起源はなんと【あそこ】にあった………ボルシュはオリジナルから人や物の名と設定をいくらか借りてオリジナルの匂いがほとんどしない冒険活劇を紡いだ。オリジナルの読者が失笑なり卒倒なりしそうな斬新な物語に仕立てた。
 NEOの面白さはそこにある。これは古い名を借りただけの、誰もがはじめて読む、まったく新しいシリーズである。


2017/6/1 y.wakabayashi / rlmdi.